日本労働評議会 高知県本部

【龍生自動車裁判】突然、「事業の継続が不可能」として労働者全員解雇したのに、裁判で、労働者が雇用確保措置を求めたことに対して会社側は「ごね得を助長」と主張

労評東京都本で取り組んでいる龍生自動車分会の活動を報告します。

 

昨年4月、「事業の継続が不可能」として労働者を全員解雇した龍生自動車。

4月15日解雇予告通知書には「事業の継続が不可能な事態」とあり「5月20日付解雇する」それまでに説明がまったく、解雇の回避努力と思われるような事もなされていない。

このような事実がありながら、現在東京地裁で続いている裁判で、会社側は労働者が雇用確保措置を求めたことに対して「ごね得を助長」と主張している。

 

(関連記事:『龍生自動車解雇事件・地位確認申立て~新型コロナを原因とするタクシー会社事業停止に基づく全員解雇事件~』

 

8月5日地位確認等請求事件提訴、11月19日第1回期日

解雇通知書一枚の解雇は一か月の猶予期間があるから解雇が自由に出来ると言わんばかりの横暴である。

直ちに5月8日の仮処分申立を行い 8月5日地位確認等請求事件として東京地裁に提訴する運びになった。

仮処分申立で解ったことには誠にお粗末な社長は5月13日にハローワーク立川に就職斡旋の依頼をしたと言う。

そしてここでも資本と結託している修正主義労組幹部が大きな役割をしている彼らは前年秋闘で事業譲渡や廃業、倒産に可能性が伝えられ遅くとも前年12月には「具体的に事業承継会社を探し、承継会社があれば条件を含めて話を進めたい」と社長から伝えられている上に再雇用等(移籍)の考えを求められていた。見せかけの合意退職届を書かせる数万円の支払いも協議している。

労組幹部は以前より会社の状況を知っていながらその他の組合員にはまったく知らされていなかった、NHKテレビニュースで解雇予告通知書を受け取って驚いたと答える組合員の姿がなまなましく報道されている。

 

平等な取り扱いがなされていたのか

資本と結託した労組幹部のみに重大な情報を伝え返答を求めていながら

2つの労働組合が存在している状況で その片方の労働組合にのみ重大な情報が伝えられる事が大きな間違えである。

そもそも論、経営状況が悪化しているのであればその旨を真摯に従業員全員に伝える努力をしないまま結託労組幹部のみに伝え突然解雇予告通知書を送付することが 全従業員について平等な取り扱いになりえない。

再就職援助計画の作成は解雇一か月前にもかかわらず5月13日にハローワーク立川に就職斡旋を依頼する姿勢は関係法規を軒並み無視する規範意識が皆無の所業としか言えない。

 

2021年1月19日第2回期日

事業者の主張は手続的配慮は全従業員の解雇である当然の手続的配慮措置を求める者に対していわばごね得を助長し、従業員間に不公平が生じる結果となる措置であるから、手続的配慮として求められるものでない。

解雇予告通知書を送付する前に十二分な説明をし、雇用調整助成金の活用をするなどして雇用の継続を希望する者には雇用継続しながら、再就職先である事業譲受企業を見つけることも可能であった。

事業者自身が招いた経営の責任を放棄して倒産の危機に瀕している緊急事態においたては全従業員について平等な取り扱いは結託修正主義労組幹部には事前にその状況を知らせ、その他の従業員には知らせず突然の解雇予告通知書を送付して解雇することが平等な取り扱いと主張する労働者が雇用調整助成金を受領し再就職の斡旋を受けようとする事は当然のことであり求められる手続的配慮である。

解雇に於ける経済的な衝撃を少しでも緩和するべき措置を望むことになる、それは遥かに大きな精神的な衝撃の数十分の壱に過ぎない。

それを倒産の危機に瀕している緊急事態においては、突然の解雇予告通知書を送付することが全従業員に平等な取り扱いである、十二分な説明をなし再就職希望する者には斡旋する・雇用調整助成金を利用して雇用継続希望する者には継続するこれらの措置が、いわばごね得を助長し従業員間に不公平が生じると言う。

ならばその責任を解雇通知書一枚で済ますのは逃げ得を助長する行為であり手続的配慮とは到底言えない。

 

2021年2月4日タクシー事業廃止届

本年2月4日にタクシー事業廃止の届が出された。

このことによりタクシー事業の譲渡金が得られず困窮する会社は「幾ばくかの解決金の支払を受けられるのではないかなどという淡い期待を抱くのをあきらめ ~略~ 本件訴えを取り差げることを希望する」と言ってきたことには只々驚愕した。

また、会社(被告)の準備書面には、原告(私)が主張する措置は、「いわばごね得を助長」する措置であるなどという記載もある。

私が主張する措置とは、いきなり解雇をするのではなく、合意退職を求め、退職しない労働者には雇用調整助成金を利用して雇用を継続しつつ、事業譲渡先を探したり、再就職所あっせんをすることである。

これを「ごね得」と言うのか?

労働者が雇用を確保するように求めることを「ごね得」としか見られないから、このような無理な整理解雇を強行できるのであろう。

このような会社の態度は許せない。私は、労評、弁護団とともに、この解雇の不当性を訴えて最後まで闘う。

 

              日本労働評議会東京都本部組合員(龍生自動車)

              龍生自動車事件原告 石川雅也

 


【日本交通分会】第5回団体交渉報告


(東京・北区 日本交通株式会社赤羽営業所)


 労評東京都本部の日本交通分会の活動を報告します。

2021年2月21日、日本交通分会第5回団体交渉が行われました。

参加者は資本側から顧問弁護士、本社管理部部長2名、三鷹営業所所長、三鷹営業所次長の計5名。組合側から顧問弁護士、労評役員2名、分会長の計4名でした。

 

(関連記事:『【日本交通分会】第4回団体交渉が行われる!』

 

前回団交での約束反故、データ出さず 資本に都合の悪いことが判明したか?

私達は団交を効率的に行うため、日交資本に対しあらかじめ「今回、会社が回答すべき事項」を50項目ほど提出していました。

これらの項目は、前回の団交で資本側が回答すると約束したものや、すでに他労組に回答しているものが大半で、資本に負担を強いるものではありません。

しかし、日交資本は「質問事項が多すぎる」「質問を見落としていた」などと言い訳をして、ほとんどの質問にまともな回答をしませんでした。

特に酷かったのが、指定 LPG スタンドの検証データを出してこなかった件です。

これは、資本が燃料費削減のためリッター単価の安いスタンドで給油するよう指定したものの、営業所や繁華街から遠いスタンドを指定したため、仕事の効率が悪くなってトータルコストでマイナスになっていることを検証するためのデータです。

前回の団交で資本が提出すると約束していたにもかかわらず「スタンド指定は、長期的に安いスタンドで入れていくという考えで決めたことだから、短期的なデータでは判断できない」と前言撤回し、組合が抽出依頼した7項目全てのデータを出してきませんでした。

また、組合が要請していた、スタンド指定の真の目的が「自腹給油」である事を立証するためのアンケート調査案については、「会社にメリットが無いからやらない」と、自腹文化を変える気がないとしか思えない回答があり、一時団交が紛糾しました。

しかし、この点については、労評顧問弁護士から「給油スタンドを指定することに合理性があるのかについて検証するデータが出せないということなら、長期的にメリットがある事を具体的に説明してもらわないと誠実に回答したことにならない」と注意して頂き、引き続き討議していくことになりました。

 

「重症化しやすい高齢者や持病持ち乗務員の休業」拒否!

最優先議題であるコロナ禍での休業については、「平均営収が4万円台後半まで回復してきている」「早朝に無線の取りこぼしがある」ことなどを理由に、フル稼働を継続すると回答。私たちが人道的見地から要請していた「重症化しやすい高齢者や持病持ち乗務員の休業」についても、明確な理由を示さず拒否しました。

 

労評員には差額支払う!!-公休出勤時の賃金未払い差額

乗務員の経費負担の問題については、組合が要求していた「嘔吐された際の賃金補償」や「自腹高速使用分の領収書」を、何の法的根拠も示さず拒否しました。

一方、公休出勤時の賃金計算については、さすがに逃げ切れないと観念したのか未払いがある事を認め、労評員に対しては差額分を計算して支払うと約束しました。

ただ、同じ賃金未払いでも洗車時間分の賃金については、全乗務員から請求されると恐れたのか「1乗務につき1000円の洗車手当を認めてしまうと会社が潰れてしまう」とブラック経営者の常套句を口にすると、「洗車と納金は終業時間の20分でできる!」と顔を真っ赤にして一歩も譲らぬ姿勢を見せました。

組合側としても本社労務部長のド根性にいつまでも付き合っていられないため、この件については、実際の作業風景を録画して本社と労基署に確認してもらうことにしました。

 

掲示スペースの貸し出しを拒否!不当労働行為として都労委へ

今回の団交で最も呆れた回答が、組合掲示物を張り出すスペースの貸し出しを拒否してきた件です。

資本側顧問弁護士は「新しくできた労組に簡単にスペースを貸し出すと、闘争の歴史の中で勝ち取ってきた既存労組が動揺しかねない。労使関係に支障をきたす」と、欲しけりゃ闘って勝ち取れ!と言わんばかりの回答。

日本交通は格闘団体なのかと問いたくなるような回答に、組合側参加者は皆失笑しました。掲示板は、第1回団交から要求している項目です。前回の団交では、労務部部長が「最低限必要な掲示スペースはどのくらいか?」と組合側に確認したうえで、「では、そのスペースで調整するしかないだろう」と三鷹営業所の所長に指示を出して終了しています。

このような経緯から私達はこれ以上交渉しても時間の無駄と判断し、「明らかな支配介入だ」と弁護士から伝えてもらい、決裂という形で終了しました。近く、都労委に不当労働行為として救済命令の申し立てを行います。

その他にも、退職金の復活要求や無線の B 空転廃止要求など、多岐にわたり交渉しましたが、資本側は合理的な回答が用意できなかったのか、頭を抱え込んで沈黙する場面が多かったです。また、資本が多数派労組と締結したと主張していた労働協約書(労基法に抵触している)も結局見つからず、昔の就業規則をコピーして持ってくる始末でした。

 

歪な労使関係を暴露し狡猾な搾取構造を正す!

以上の報告からも分かる通り、日交資本は御用労組と結託し、長期にわたり労働者から搾取をしています。その手口は巧妙で、労働者から不満が出ない程度に、ありとあらゆるところから少しずつ搾取しています。

当分会は5回にわたる団体交渉を通しそのことを暴露してきました。そして今、資本が逃げ切れないと観念するところまで追い詰めています。それは、今回参加した会社側顧問弁護士が、私達の主張に対し、法的観点から反論することができず、感情論に終始していたことからも明らかです。

労評は物取り主義ではないため、引き続き団交で賃金規定や労働条件の改善も求めていきます。しかし、日交資本が、沈黙を貫き、事実関係を否定し、改善する姿勢を完全に放棄した問題については、労基署、都労委、裁判所などの公的機関を活用し解決を図っていく方針です。

 

利益至上主義の経営陣に見切りをつけ退職者続出!

また、コロナ禍において、一切の休業措置を講じなかった件や、(業務提携会社の)女性乗務員が凶悪犯罪に巻き込まれたにもかかわらず何の対策を取ろうとしていない件からは、いまだに、日交資本が人命を軽視した利益至上主義であることが垣間見えました。

現在、そんな日本交通に見切りをつけ辞めていく乗務員が後を絶ちません。その多くが「こんな賃金では生活できない」「乗務員のことを大事にしない会社だ!」と、経営陣に対する恨み節を口にして辞めていきます。しかし、川鍋会長は「今ほど採用が楽な時はない」と、代わりはいくらでも入ってくると言わんばかりにTVで発言しています。心底呆れます。

労評は「人命はすべてに優先する」「乗務員の生活が第一」と考えていますので、これらの件も、引き続き要請を行っていきます。

 

最後に

日本交通は図体ばかり大きくて、コンプライアンスの水準は中小企業以下です。

それは、既存労組が資本と癒着して本来の機能を果たしてこなかったからに他なりません。

労評は、労働問題を根本から解決すべく団交に臨み、日本交通を真のリーディングカンパニーに生まれ変わらせるつもりです。それが、すべてのタクシー労働者の経済的・社会的地位の向上に繋がるからです。

そのためには一人でも多くの方の協力が必要です。もちろん日本交通以外にお勤めの方や異業種の方でも労評に加入できます。ご協力いただける方は下記の労評事務所までお電話ください。

 

次回団交期日は調整中です。

【メモ】

過去に、ハイヤーが凍結した道路でスリップ時事故を起こし顧客を死亡させてしまった際も、タクシー部門では 4 輪のうち 2 輪にしかスタッドレスタイヤを履かせずに運行を続けていたのは記憶に新しいところです。近年、組合役員から猛抗議され、4輪すべてにオールシーズンタイヤを履くようになりしましたが、それは、人命軽視の経営姿勢を改めたのではなく、ただ単に、経費削減とタイヤ保管場所の有効活用の観点から導入したのだと、今回の件で確信しました。

 

【次回要求事項】

燃料が半分を切っていた時は、指定スタンド以外でも 10Lまでなら給油して良いこととする。会社に連絡が付かないときは事後報告で良いこととする。

*現在、会社は、事前報告を行えば、このような対応をしていると説明しているが、会社に電話連絡をしても連絡がつかない場合があることから、分会としてこれを要求するものである。


【介護業界】「ケアワーク千代田」で起きたパワハラを糾弾!団体交渉報告

 

労評東京都本部での活動を報告します。

パワハラの温床となっている職場環境

介護業界の労働トラブルで新たな闘いが始まりました。

「ケアワーク千代田」(東京・飯田橋)と2月20日、リモートで団体交渉を行いました。

主要な内容は、代表秘書という社長の側近である人物が行ったパワハラ発言についての謝罪要求です。

2019年9月某日、T組合員に対し代表秘書が「家族が大事なようだけど、迷惑だ」と言い放ち、T組合員の家族を侮辱する発言をしてきたのです。

なぜこのような発言が起きたのでしょうか。代表秘書の心理は定かではありませんが、労評として複合的な要素がこの問題を生んだのではないかと推測しています。

①以前に家族を含めた食事会が開かれたことがあり、代表秘書はT組合員の奥さんと面識がある
②T組合員は通勤に片道1時間40分かかるので、定時(18時)にすぐ帰宅している
③当時T組合員はケアワーク千代田勤務歴が約半年だった

代表秘書は労働者を指導する立場であることから、T組合員に対し1対1の面談を行い、仕事の姿勢に対する指導を行うことがありました。

今回の発言は、その指導の最中に出たものです。どの業界にも上司と部下といった上下関係は普遍的に存在しますが、代表秘書という肩書を利用し強権的な態度で労働者に接した結果、出た言葉ではないかと思います。T組合員はこの発言がずっと心に引っかかる状態で職務を強いられてきたのです。労評として、このパワハラ発言を見逃すわけにはいきません!

 

逃げの姿勢で回答を避けるケアワーク資本

団体交渉では、三輪代表取締役と今回問題になった代表秘書、更に棚田弁護士が参加しました。

資本の見解は「発言した記憶はない」と一点張りで、棚田弁護士が代弁していました。開始からしばらくは弁護士が発言しており、代表秘書を指名し回答をするよう求めましたが、頑なに口を閉ざしていました。

労評は厳しく追及し発言を求め、代表秘書がようやく話し始めましたが、主張は一点張りでした。

記憶の有無は別として、会話のなかで相手に屈辱的な認識を与えてしまったわけですから、そう捉えさせてしまったことについてどう考えているかを追及しましたが、「誤解がある話がそもそもあったかどうか」とか「どうしてそんな捉え方になっちゃったんだろう」と問題をはぐらかしT組合員の認識に問題があるというような発言を繰り返していました。

さらに、代表秘書が労働者に対し「電話の声が大きい」「パソコンを打つ音が大きい」と気分屋的な発言をしたことに対し、T組合員が労働者の働く環境を壊し、やる気を削ぐようなことを行っていることを追及すると、三輪代表取締役が「他の従業員から指摘があったから」と返答しました。

そうであるならば、事情の説明をし丁寧に指導すれば良かっただけであり、資本が伝えるべきことを伝えなかったために起きた問題です。

労評はパワハラのない職場環境を目指します!

資本の社訓や経営理念には「一人一人はつらつと働くことができる会社」と掲げています。

しかし、内実は全くのデタラメであることが明確になったのが今回の団体交渉でした。

意見したら「潰される」「嫌がらせを受ける」「何十倍にもなって仕返しされる」と労働者は怯えて働いているのです。

また、利用者が必要としないサービスを勧めるという、利用者本位ではなく会社の利益本位になっている問題も確認しています。

この問題も含め、次回団体交渉でも取り上げていきたいと思います。資本への追及の手を緩めず、労評で道理を通し、対等に交渉するための闘争を貫徹します

 


【不当判決を糾弾!】トールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決 弁護団声明

トールエクスプレスジャパン事件
大阪高裁判決

弁護団声明

 

2021年2月26日

トールエクスプレスジャパン事件弁護団

弁護士 指宿昭一

弁護士 中井雅人

 

2021年2月25日のトールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決(清水響裁判長)は控訴棄却(一審原告敗訴)の不当判決であった。

国際自動車第2次最高裁判決によれば、本件賃金規則による時間外労働手当の支払いが労基法37条の割増賃金であるといえるためには、通常の労働時間の賃金と時間外手当が判別できること(判別可能性)が必要であり、判別できるというためには、時間外手当が時間外労働等に対する対価として支払われていること(対価性)が必要である。本判決もこの前提は認めている。

 

本判決は、「本件賃金規則においては、能率手当を含む基準内賃金が通常の労働時間に当たる部分、時間外手当A、B及びCが労基法37条の定める割増賃金であり、当該割増賃金は他の賃金と明確に区別して支給されていると認めることができる」として、対価性を検討する前に、きわめて形式的な判断で「判別可能性」を肯定した。

 

そして、対価性については、①能率手当は「集配職の業務の効率化を図る趣旨で、出来高制賃金として能率手当を設けることには合理的理由があ」るという判断を前提に、②時間外手当Bは、国際自動車の「事案とは異なり、能率手当が発生しない場合に時間外手当Bだけが支払われるという事態が発生することはな」いから、「時間外労働に対する対価として支払われるものと認められ」、③時間外手当Aについては、「時間外労働等が増加しても賃金総額が変わらないという現象自体は、いわゆる固定残業代が有効と認められる場合にも同様に生ずることであるから、それだけで本件賃金制度における能率手当が同条の趣旨を逸脱するものであると評価することはでき」ず、「労働時間に応じた賃金については」、労基法27条と労働基準規則によって「出来高払制賃金と労働基準法37条の趣旨との整合性が図られて」いるから、「実質的にみて、本件計算方法を採ることにより、売上高等を得るにあたり生ずる経費としての割増賃金の全額を集配職の労働者に負担させているに等しいと評価することはできない」として、「時間外手当Aは、実質的にみても、時間外労働等の対価として支給されるものというべき」として対価性を肯定している(この点が、国際自動車第2次最判と最も違う点である)。

 

本判決の特徴は、国際自動車第2次最判が基準とした、時間外労働を抑制し、労働者への補償を行うという労基法37条の趣旨に従って、対価性及び判別可能性を判断していないことである(その代わりに重視する価値が「業務効率」である。)。労基法37条の趣旨は、判断の基準として形式的に述べられているだけで、実際の判断の中では顧みられておらず、実際の判断は労基法27条や労働基準規則に明確に違反していなければ、雇用契約と労使合意で自由に賃金規則を制定することができると考えていることである。強行法規である労基法37条よりも雇用契約や労使合意を上位に置いているとしか思えない契約自由の原則の一面的な強調が本判決を支える思想である。

 

清水響裁判長は、かつて国際自動車事件第2次訴訟一審において労働者敗訴の判決を書いた裁判官である。この判決も、契約自由の原則と労使合意を労基法37条の上に置き、労基法27条などの明文の規定に反しない限り、どのような賃金規則を作ることも自由であるということを前提になされたものである。この判決は控訴審で維持されたが、上告審である国際自動車第2次最高裁判決で明確に否定され、破棄差戻された。

 

これらの2つの清水判決は、契約自由の原則を一面的に強調することで、労基法37条の趣旨を否定し、「残業代ゼロ」制度としての賃金制度を容認する許しがたい不当判決である。このような判決が確定すれば、戦後労働法制が守ってきた労働時間規制が崩壊しかねないことになる。清水裁判長は、自らの判決が最高裁で否定されたことにも懲りず、亡霊のような反動判決を言い渡した。一審原告と弁護団は、本判決に対して上告・上告受理申し立てを行い、最高裁での逆転勝訴を目指す。

 

現在の裁判制度は、資本主義社会における体制維持の一機関にすぎず、我々はいわば敵の土俵の上で闘っている。裁判の勝敗よりも大事なことは、当該労働者を中心に団結が強化され、闘いが前進することである。本件訴訟においても、当該労働者らは、大阪地裁敗訴判決に負けることなく、労働組合としての団結を強化して、全国の労評の仲間とともに総労働の力で闘ってきた。今回の反動判決に対しても、当該労働者らは負けずに前進するであろう。弁護団も、当該労働者及び全国の労評の仲間と共に、トールエクスプレスジャパンにおける労働運動の前進と最高裁における逆転勝訴に向けて全力で闘うことを表明する。

以上


【トールエクスプレスジャパン事件】「残業代ゼロ」は許さない!2/25に大阪高裁の判断が出される

 

「残業代ゼロ」は許さない!2/25に大阪高裁の判断が出される

どれだけ残業しても賃金が変わらない「残業代ゼロ」の不当な賃金制度を巡り、大阪高裁係属中のトールエクスプレスジャパン事件は、来週2月25日13時15分に判決が言い渡されます。

交通運輸業界は物流、旅客の業種は違っても長時間労働が蔓延し、低賃金で使われ、人手不足は深刻です。

なかでも、今回の裁判で争点になっている「どれだけ残業しても稼げない賃金制度」はトールに限らず、他の会社でもかなり似た賃金体系を敷いているところが多く見られます。

賃金体系の問題点についてはこちら⇒『トールエクスプレスジャパン賃金規則の問題点

そのため業界に低賃金と長時間労働が蔓延していますが、既存の労働組合の多くはこの問題に取り組みません。

こうした中で労働者は不満や怒りを持ちながらもどうしていいのかわからない状態に置かれています。

 

労評と共に、働き甲斐のある会社に変えていこう!

トールのように、賃金計算で時間外手当を差し引き実質的に割増賃金の支払いを逃れる「残業代ゼロ」の歩合給制度は、トラック・タクシーなどの運輸・交通産業で多く採用されています。「残業代ゼロ」の賃金制度は、資本と修正主義・御用組合とが結託して作り上げたものです。この裁判は、労働者を過酷に搾取する賃金制度を撤廃させるための闘いであり、労評トールの労働者は、資本及び御用組合へ対して闘ってきました。

荷物を運ぶ労働者が居なければ、会社は成り立ちません。

配達時間帯、集荷時間帯を守るよう必死で努力している集配労働者に対し、支店外でサボる可能性があるなどというのは、われわれ労働者に対する侮辱です。

このような会社に未来はありません。誰が稼いでいるのか、現業労働者が稼いで会社は成り立っています。

労評と共に、このような会社の考え方を変え、働き甲斐のある会社に変えていきましょう。

 

★トールエクスプレスジャパン事件については、過去のブログ記事もご覧ください。

 【労評交運労トール労組】トールエクスプレスジャパン事件控訴審が本日結審!

当日は判決言い渡し後に下記要領にて記者会見を予定しています。

 


 

<記者会見> 2月25日(木)14時~ 大阪地裁司法記者クラブ

<会見者> 原告ら訴訟代理人弁護士 指宿昭一 中井雅人

     日本労働評議会大阪府本部役員 原告代表

 

トールエクスプレスジャパン株式会社(本社・大阪市中央区)では、時間外手当の大半を支払わない「残業代ゼロ」の賃金制度を採用しています。同社の賃金計算は、時間外手当Aを形式上支払ったことにして、能率手当の計算で時間外手当Aを差し引いているため、割増賃金(時間外手当A)が給与計算から消えています。つまり、同社は、実質的に、割増賃金(時間外手当A)の支払いをしていないことになります。

同社のように、賃金計算で時間外手当を差し引き実質的に割増賃金の支払いを逃れる「残業代ゼロ」の歩合給制度は、トラック・タクシーなどの運輸・交通産業で多く採用されており、社会的に強い批判を受けています。

本件判決は、同社のトラック運転手がこのような賃金制度に疑問を持ち、労働組合(日本労働評議会トール広島分会)を結成し、2016年6月14日、大阪地裁に提訴しました。2019年3月20日、大阪地裁は原告労働者ら敗訴判決でしたが、労働者ら13名が控訴し、大阪高裁第2民事部で審理が続いてきました。

2019年4月1日に控訴して2020年12月16日に結審するまで、約1年半で、控訴人(労働者)側は控訴理由書に加え10の準備書面、被控訴人(会社)側は答弁書に加え14の準備書面を提出しました。

この間、本件と類似の事件であるタクシー会社の「国際自動車事件」について、2020年3月30日に第2次最高裁判決がありました(本件労働者側代理人弁護士である指宿昭一が同事件の労働者側代理人。)。同判決は、「労働基準法37条の定める割増賃金の本質から逸脱したもの」等と述べて明確に労働者側勝訴の判決を言い渡しました(高裁差戻・高裁係属中)。

大阪高裁第2民事部は、一時は国際自動車事件第2次最判よりも前に判決を出そうとしていましたが、同最判を受けて弁論を再開させました。その後は、同最判に基づく争点整理及び当事者の主張・反論が続き結審に至りました。国際自動車事件差戻審が結審していないことから、本件が国際自動車事件第2次最判後、同判決を援用した最初の高裁判決になると思われます。その意味でも社会的影響の大きい判決です。

控訴人(労働者)側としては、本件には、国際自動車事件とは僅かな計算式の違いがあるものの、同最判の射程が及び、控訴人(労働者)側の逆転勝訴となるべきだと考えます。

以上

【参考資料】国際自動車事件とトールエクスプレスジャパン事件の賃金計算式の比較